『前田利家』

人物叢書

岩沢 愿彦 著

吉川弘文館 刊

昭和41年12月20日(初版)
379ページ 1,900円(新版1版価格)

評 価
★★★★

著者・岩沢 愿彦(いわさわ よしひこ)氏は、大正十年(1921)生まれ。國學院大學卒。東京大学史料編纂所員を経て日本大学教授。『信長公記』『古文書文例大字典』『断家譜』『徳川諸家系譜』「山城・近江における豊臣氏の蔵入地について」「石田三成の近江佐和山領有」「本能寺の変拾遺-『日々記』所収天正十年夏記について-」など著編書・論文多数。戦国史、古文書学の大家であった。

(宮腰中山家伝来の前田利家画像)

本書は、「加賀百万石の藩祖前田利家の実録。信長・秀吉政権の成立と展開に密着しつつ、幸運に乗って自らを開拓する勇気と才能、誠実と機智とを具え、変転する動乱の世に、順調な境遇を保って生涯を閉じる。本書は稗史や巷説に惑わされず、あくまで基礎史科を忠実に踏まえ、豊臣政権の側面を叙して、利家の真面目を描き出す。新装版は、新史料により加筆し、異説の多いその出生年次を解きあかした。 」というもの。

昭和の戦国史研究をリードした國學院大學系学者の書籍である。『人物叢書』であり、大変信用の置ける専門書となっている。『人物叢書』としてもボリュームの多い一冊であるが、まことに実証的であり、あらゆる一級史料を網羅している。そして出典の明記はこれまでに見たことがないほどに完璧である。
前田利家研究は本書を除いては考えられない、基本史料と言えるだろう。これを超える研究というのは、相当に困難ではないかと想像されるもの。ともかく必携の一冊である。

著者曰く、
「前田利家ほど幸運に恵まれた武将は少ないと思う。むろん安逸を貪って幸福をつかむ者はいない。彼は幸運に乗って運命を開拓するだけの勇気と才能と誠実さと機智と社交性とを持っていた。しかしそれにしても、全国の統一者織田信長、豊臣秀吉、徳川家康とあい前後して生まれ、長じて信長に仕え、秀吉の姻戚となり、家康と親しく交際するという順調な境遇は、動乱の世においては稀有の事象である。しかも彼は、秀吉亡きあとの混濁の世を長く経験することなくして薨じた。」

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