『天下人の一級史料』

 秀吉文書の真実

山本 博文 著

柏書房 刊

2009年6月25日(1版)
272ページ 2,310円

評 価
★★

 

著者・山本 博文氏は、1957年、岡山県津山市生まれ。東京大学文学部国史学科卒業。同大大学院、東京大学史料編纂所助手、同助教授を経て、東京大学史料編纂所教授。文学博士(東京大学)。1992年、『江戸お留守居役の日記』(講談社学術文庫)により第40回日本エッセイストクラブ賞受賞。著書に『切腹』『日本史の一級史料』『島津義弘の賭け』『武士と世間』など多数。

本書は、「豊臣秀吉が実施した刀狩令、身分統制令、バテレン追放令などの重要政策を記した一級史料を正確に解釈し、学界での論争状況も織り込みながら、新解釈を提示して従来の説に対して疑問を投げかけていく。また、2009年NHK大河ドラマ『天地人』の主人公・直江兼続が記したとされる「直江状」の真偽について、山本説を提示。

第一講 刀狩令
 第1章 島津家文書の二通の刀狩令
 第2章 さまざまな刀狩令
 第3章 刀狩令の収蔵状況
 第4章 刀狩令の広がり
 第5章 基本法令となった刀狩令  

第二講 「人掃令」と「身分法令」  
 第1章 秀次「人掃令」原本の確定  
 第2章 二通の「人掃令」?  
 第3章 秀吉「身分法令」の本質
 第4章 「人掃令」をめぐる論争の意義

第三講 バテレン追放令 
 第1章 バテレン追放令の解釈  
 第2章 バテレン追放令の伝達
 第3章 バテレン追放令の国内への布達 
 第4章 もう一つの「キリシタン禁令」 

第四講 豊臣政権の「取次」と奉行  
 第1章 豊臣政権の「取次」と「指南」   
 第2章 「御取次之筋目」とはなにか  
 第3章 五大老・五奉行制をめぐって  

補講 「直江状」の真偽

 

東京大学史料編纂所教授による古文書の読み方・分析に関する書物である。自身で「上級者編」と述べるとおり、かなり専門的な内容になっており、戦国史や古文書学に興味がなければ読みこなすのは難しいかも知れない。ただ、逆に史料の見方や検証方法、それらに関する学説の推移が記載されていて興味深い一冊になっている。

しかし、読んでいて、あまり気分の良くない書籍であった。

と言うのは、先学に対する批判・反論が露骨であり、自身の説を誇示するきらいが感じ取られるためである。

「ずいぶんわかりにくい文章です。私には原文の方がよほどわかりやすく思えます。」(143頁・安野眞幸氏のバテレン追放令の訳文に対して)

「安野氏や清水氏の文章には全文訳がないので、(中略)難解だと思うのなら、自分の訳を掲げたらよいのにと思います。」(145頁)

「この文章は偽文書だが内容的に見て正しいものが含まれているから一概に捨てるべきではない、というわけのわからないことを主張する人もいました。」(170頁)

「多くの研究者の支持を得て、(中略)「取次」提唱者としてはありがたい限りだと思っている。」(208頁)

「なぜ、こうした筋違いの批判ができるのか、私には理解できません。」(201頁)

「豊臣秀長の役割については、私の指摘を受けて、播磨良紀氏が秀吉「名代」として分析を行っている。」(218頁)

「研究者でも、これだけの原本を見たことはないはずです。」(はじめに)

本書では桑田忠親氏、三鬼清一郎氏など、様々な先学の学説を引用して、それに痛罵を与えている。これらに対して、三鬼清一郎氏の再反論も見られている(『歴史学研究』)が、私にはその当否の判断は付け難い。
しかし、権威ある東大教授がこのような一般書で、一般的ではない専門的学説を痛烈に批評するのは、社会的にはあまり公平ではないのではないか?と率直に感じてしまう。
「尊敬する緒先学の学説を批判している部分もありますが、それも諸先学の業績があってのことですので、ご容赦いただきたいと思います。」(はじめに)と述べているが、その限度を超えていると思われる。

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