『「三国志」の迷宮』

-儒教への反抗有徳の仮面-

 

山口 久和 著

文藝春秋 刊

平成11年6月20日(1版)
190ページ 660円

評 価
★★

 

著者の山口久和氏は、1948年滋賀県生まれ。大阪市立大卒、京大院修了。大阪市立大教授。文学博士。中国近世思想史・文化史専攻。三国志に関する論文も多数。『朱子学と自由の伝統』『章学誠の知識論―考証学批判を中心として』など。

本書は、「劉備は本当に仁慈の君か?孔明は誠忠だけの賢人か?曹操は単なる奸雄か?中国思想史から見た、複雑で奥深い英雄たちの素顔」というもの。

三国志を主に中国思想史から分析している。合理主義から反儒教に傾倒した曹操、有徳の仮面をかぶる偽善者・劉備、地政学による天下三分の計の検討、史料分析による「三顧の礼」の否定、諸葛亮孔明が「誠実のマキャベリスト」(マキャベリズム=権謀術数主義)であったこと、などなど。

まず印象に残ったのは、本書は論文基調の書き振りであり、無駄に難解な(一般的でない)単語が飛び交っている点、文章が無味乾燥としたもので、悪文とまでは言わないが、読みにくいものである点。いかにも中国史家という感じである。

それはおくとして、三国志と中国思想を併せて検討するのはいいとしても、その三国志の史実をどこまで探求しているのかには疑問がある。一部「三顧の礼」の否定に関しては、当時の史料、後年の文献を分析されているが、そのほかの箇所は、ほとんど陳寿『三国志』などの通説を無批判に採用していると感じられる。歴史家は、歴史の真実を突き止めなければ、その歴史の評価を記すことはできないであろう。

ともかく、概して、読みにくい一冊である。最後の一文はこうである。

考えてみれば、中国のミネルヴァの梟は、杜預のように「曲学阿世」に陥る危険をたぶんにはらみつつ、学問という巨大な森の中を精一杯飛び回っているように思われるのである。

本書は、大手古書店で100円で購入したが、妥当な価格と感じられた。

 

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