『図解 山城探訪』

  (『縄張図・断面図・鳥瞰図で見る 信濃の山城と館』全8巻として復刊)
 

宮坂武男 著

長野日報社 刊

1995年~

評 価
★★★★★

著者・宮坂武男氏は、1932年生れ。長野県下諏訪町出身、現在は岡谷市湖畔に在住する。信州大学教育学部卒業。茅野市永明小学校長、岡谷市教育委員長を務めた。県文化財保護協会諏訪支部長、信濃史学会会員(『Wikipedia』)

宮坂氏は、長野県の城郭研究のパイオニアであり権威でもある。氏に匹敵する研究者を私は知らない。
というのは、存在したすべての史跡を訪問し、仔細、正鵠極まる縄張図・概念図を作成されているのである。信州は全国の中でも峻険な山城が多いことで有名だが、そのすべてを制覇するというのは計り知れない業績である。さらにその正確無比な縄張図は後年の財産であること疑いない。

その研究成果が残されているのが『図解 山城探訪』である。

本書の構成は、城が列記され、それの地図上の位置が掲載されている。

山城を訪れる場合に一番苦労するのは、その場所を特定することである。その点、本書は非常に親切であると言える。

そして城の歴史・遺構・訪問方法などが紹介され、縄張図、鳥瞰図などが記されている。

すべての城砦館に対して、このような丁寧な方法で研究がなされている。したがって、1,300箇所近くあるという長野の城砦館を掲載するのに、18分冊を要している。だが、本書を所有していれば、信州の城については、他の書籍は一切不要である。

私がこの書を知ったのは『信玄を捜す旅』であった。その管理人殿はこの業績を次のように評している。「仕事のかたわらで数十年かけて調査を行ってきた宮坂先生は偉大な方だと、これを拝見するたびに感じます。
また、信州の城郭ブログである『
らんまる攻城戦記』管理人らんまる殿は、常にその縄張図を「」であると評価されている。

まさにそのとおりで、城の存在する山全体を探訪し、遺構の無い場所までも詳しく踏査されているのが見て取れ、その検分能力は感嘆するしかないほど素晴らしいものである。

氏の調査方法は、巻尺を使っての測量など、地道な手法を重ねられているようであり、同じ史跡に幾たびも挑戦されているらしい。一方で、さすがに厳しい探訪も少なくないらしく、『長野-第218号 特集 北条氏と信濃-』所収【「鬼ヶ城」「猿ヶ城」と呼ばれる城跡において、

県下の山城踏査の中で、敬遠したくなるような城跡がある。その代表的なのが「鬼ヶ城」あるいは「猿ヶ城」と呼ばれているもので、名前だけでも察しがつく。どこを見ても険しい山ばかりで、よくぞここまで辿り着けたものだと満足感はあったが、二度と行きたいとは思わない山である。鬼ヶ城だとか猿ヶ城などと呼ばれる小さな城砦が、山の中に伝説に包まれてひっそりと残っているが、こうした名が残ったこと自体、私たちが考える以上に、昔の人にとっては身近かな存在であったのかも知れない。」(抜粋)

と述べられている。

本書は、基本的には非売品で、ネットでも出回っているのは見たことが無い。したがって、地元の図書館などで閲覧するしか手が無いのは残念なことである。かつて長野日報社が一部販売していたが、1冊1万円余もする高価なものであった。ぜひ再版を希望したいところである。

現在、氏は信州を制覇し、山梨・群馬などに進攻されているらしい。その調査結果が楽しみである。

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本書は、 戎光祥出版から『信濃の山城と館』全8巻として限定部数復刊された。

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城と古戦場

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