『松尾芭蕉』

人物叢書

阿部 喜三男 著

吉川弘文館 刊

昭和36年7月10日(初版)
244ページ 400円(6
版・昭和44年

評 価
★★★

著者阿部 喜三男氏(あべ きみお、1909年-1970年)氏は、日本の国文学者。近世俳諧が専門。東大卒。台北第一中学校教諭、東京府立第三中学校(現東京都立両国高等学校)教諭、海軍教授、明治大学政経学部教授。在職中に61歳で死去(『Wikipedia』)。
酒害に蝕まれたらしく、
松山亮次郎(元明治大学教授)氏は、「由来健康に留意されることの薄かった先生であるが、そのことは逆にいえば研究の一筋に道を歩んで、他を顧る余裕に乏しかったともいえよう。余暇を慰めるものといっては酒であった。酒間たまたま私たちが健康についていうことがあってもむしろそれを外道としてしりぞけられた。それは研究一筋のきびしさの現れともいえよう。小躯斗酒を辞さなかった先生も、近年は酒量を減ぜられ、今春東京医大病院入院以後はまったく口にされなくなった。しかし、私たちがお伺いすると、それをすすめられる余裕は失わなかった。と記している(『阿部喜三男先生を悼んで』)。

本書は、「多くの資料と粉々たる論説,または多彩な俗説を整理し,最近特に進歩した芭蕉研究の成果をふまえて,従来にない正確さで,新しくまとめられた伝記。作品・作風の展開を述べ,その風雅,文芸の境地を解説するだけでなく,その生涯のあらゆる部面にわたって綿密な検討を遂げ,さらに死後の一章をも叙した芭蕉翁の全貌である。」というもの。

松尾芭蕉は、蕉風と呼ばれる芸術性の極めて高い句風を確立し、後世では俳聖として世界的にも知られる、日本史上最高の俳諧師の一人である。複数の紀行文を残しており、その足跡をたどることが可能である。

著者は俳諧にも深い造詣を持ち、多数の芭蕉の俳句が掲載されている。また史実のみを追求した一冊となっている。その姿勢はまさに実証的であり、古いものであるが、芭蕉の入門書として適しているだろう。『人物叢書』の誇る一冊と言える。

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