『真田昌幸』

 人物叢書

柴辻 俊六 著

吉川弘文館 刊

1996年8月10日(初版)
247ページ 1,800円

評 価
★★★

著者・柴辻俊六氏は、1941年山梨県中巨摩郡竜王村生。文学博士。1964年早稲田大学教育学部卒。同大学院文学研究科史学専修修士課程修了。早稲田大学図書館勤務。早稲田大学、法政大学大学院、國學院大學、日本大学において非常勤講師。日本古文書学会運営委員・評議員、山梨郷土研究会理事などを歴任した(『Wikipedia』)
甲斐武田氏の研究で著名で、著書が多数あり、また地方誌『山梨県史』『大月市史』『大田区史』『国分寺市史』『甲府市史』『都留市史』などの編纂もされている。

本書は、「安土桃山時代の深謀に富んだ智将。初め信玄に仕えたが、武田氏滅亡後は徳川家康に属し、信濃国小県郡・上野国沼田領を勢力下に収めて大名となった。家康と対立後は次男幸村と共に豊臣秀吉に仕え「表裏比興の者」と評されながら、織豊期を必死に生き抜く。その処世術と事跡を検証し、領主権力の拡大と闘争過程を解明して実像に迫る、初の伝記」。

そのとおり、真田昌幸の伝記本として貴重である。武田氏研究の重鎮だけあって、広く史料に基づき大変深く信頼の置ける内容になっている。このあたり、「人物叢書」がいずれも良本であるのと同様だ。

本書を読めば真田昌幸については一通り知悉することができるだろう。ただ、一点残念なのは、昌幸の智謀の最たる見せ所である二度の「上田合戦」の記述がかなり簡素なところである。確実な史料による史実のみが列記されているが、読者としてはもっと細かい内容が知りたい。この合戦は『三河日記』『家忠日記』『上田軍記』などに詳しいらしく、その辺も詳述してほしかった。

ともかく、「人物叢書」の安定した歴史書のひとつである。

著者曰く、
「上田城攻防戦に関しては、真田側にも良質な史料少なく、ただ、関ヶ原合戦への秀忠軍の参戦を遅らせた点のみが強調されるが、その経過をみた時、いくつかの疑問点が生ずる。まず大坂方との連絡が途絶え、かつ信濃でも孤立した状況の中で、あえて何ゆえに最後まで秀忠軍に抵抗したのかであり、また上田城に帰着後に上洛する時間は十分あったのに、何ゆえ上田城に止まっていたのかである。さらには、秀忠軍を上田に滞留させたとはいうものの、昌幸に関ヶ原合戦全体の動きと状況把握がどの程度なされていたのかも興味ある問題である。一つには昌幸の反骨性が底流にあったと思われるが、具体的にはそれらを直接的に物語るものはなく、いずれもむずかしい問題と言わざるを得ない。」

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