『武田信玄の戦略』

-三方原の戦-

 

高柳 光寿 著

春秋社 刊

1988年3月20日(復刊・原刊1958年)
239ページ 1,400円

評 価
★★★★★

著者は、戦国史研究の権威であった。
明治25年生まれ。東大史料編纂官、國學院大教授、大正大教授、日本歴史学会会長などを歴任。昭和44年没。『足利尊氏』『鎌倉市史』『明智光秀』など。

その研究は、極めて実証的で、予断を持たず、数多くの史料を冷静に分析される。博士の打ち出された新説の多くは、当時は画期的なものだったろうが、現在は通説になっている。

高柳氏の『戦国戦記』シリーズの一冊である。他に本能寺の変長篠の戦賤ヶ岳の戦いなどが出版されている。(いずれも必読の名著である。)

本書は、「信玄対家康の歴史を変えた一大決戦。正確無比の史料解読と抜群の推理力を駆使して、信玄対家康の戦略・戦術を克明に比較分析し、信玄のイメージを決定づけた名著 」というもの。

確実な史料の乏しい三方ヶ原の合戦について、できる限りの史料を駆使し、可能な推察を加え、その史実を露わにしている。まさに高柳歴史学であり、その内容の信頼性は高い。なお、高柳氏は信玄の侵攻に目的について、上洛説ではなく局地説を主張されている。

小和田哲男氏も『三方ヶ原の戦い』を著すにあたり、本書を大きな目標にしたと明言されている。

いずれにしても名著であることに間違いはない。

著者曰く、
「三方原という台地は大部隊の交戦には最も適当した戦場である。信玄のこの計画に対しては、さすが百戦錬磨の名将であると敬服するほかはない。(中略)しかしさびしいことである。愛子を犠牲にして苦心惨憺やっと得たところのものが、その死によってわずか十年たらずで崩れ去ったのであった。いや、初めから持っていたものをも失ったとは。それにしても、われわれはこの事実によって歴史における個人の力をも認めないではおられない。」

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城と古戦場

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