大垂水峠の伝説の走り屋

(1986-1987)

某バイク雑誌の当時の記事

~ウワサのスーパーライダーを追う!峠のスーパースター列伝~

峠が一つあれば、そこに必ず伝説のライダーと呼ばれるヤツがいる。
めっぽう速くて常連のウワサになったライダー・・・。今、現役でバリバリ峠を走っている連中の中から、伝説のライダーが現れるとしたら・・・ 。今、大垂水では、「えんじょガンマ」が、奥多摩では「FZ750のSADAO」が、阪奈道路は「FZ400のWATARU」、筑波山では「RCパープル」の面々が速い。中部は「三河湾の悪魔」が噂の的だ・・・。

国道20号、東京と神奈川の県境にあるのが大垂水峠だ。関東のローリングライダーのメッカ的存在で、土曜日の夜から日曜日にかけて、走り屋とギャラリーが大挙して来る。夜中まで二輪・四輪とり交ぜて、自分のテクニックとフォーム、そしてコーナリングスピードを披露し合っているのだ。当然事故も多く、少しでもリズムを崩しそうなコーナーの脇には必ずと言っていいほど花が供えられているという異常な状況だ。当然、当局の取締りも厳しく、峠の出口ではネズミ捕り、白バイの警らもひんぱん。事故を起こしたライダーへの対応も厳しい。

ここは関東での走りのメッカだけに伝説的ライダーも多い。少なからぬライダーが大垂水を踏み台にして、サーキットへ羽ばたいて行った。現国際A級F1ライダーで、本誌テストライダーでもある和田稔。彼も大垂水からサーキットへと移って行ったひとり。その頃のバイクはZ750FX-IIIで、地元八王子から毎日のように現れ、最速の名を欲しいままにしていたという。同じく現・国際A級でKISSレーシングチームの花村忠昭も、大垂水の出身だ。和田と花村の大垂水でもバトルは、当時の走り屋たちの間では未だに語り草になっている。
しかし、華やかにサーキットで活躍しているライダーばかりとは限らない。和田をして「あいつがサーキットで走っていたら、とんでもなく速いレーサーになっていたに違いない」と言わしめた、当時RG250に乗っていたS。コーナーというコーナーを火花を散らしながら抜けていったという彼は、バイク同士の正面衝突の結果、二年間もの入院生活を送り、それ以来、二度とバイクに乗れない体になってしまった。大垂水から華やかなサーキットへデビューしたライダーの数の何倍もが、そういう風に大垂水に消えていったことも忘れてはならない。
最近では「彗星」と名乗ったNS250R。ちょっと前まで大垂水最速といわれていたが、舞台をサーキットに移し、その後、革ツナギをパドックで盗まれ泣いていた、というところまでしか消息が分からない・・・。 その後で名前が売れ始めたのが「南南西の風」。VF400を駆る男だ。彼が大垂水を引退した今、最速の名を手中にしたのが「えんじょガンマ」である。「えんじょガンマ」が常連と呼ばれ出したのは85年秋頃。そのころ最速は「南南西の風」だった。朝の大垂水を「風」を追いかけて、「γ」は走る。何度となく転倒し、そのたびに速くなっていく。γのタンクはペコペコになり、塗装がはげて赤サビが浮くようになった。それがギャラリーには、まるでタンクが炎上しているように見え、「えんじょ」と呼ばれるようになったという。 「γ」が常連になってから1ヶ月が過ぎようとしていたある日、「γ」は自分のコーナリングスピードが「風」よりも速くなっていることに気がついた。数日後、いつものように峠の駐車場を出るとき、「風」が「γ」に向かって右手で前を走るように合図を送る。「風」が「γ」の速さとライディングテクニックを認めたのだった。「風」だけでなく、他の常連も「γ」の速さは認めていた。それを無言で「風」に告げられた「γ」は、「風」の友情を感じ取ったに違いない。「γ」は今でも「南南西の風」のことを「南南ちゃん」と呼び、懐かしそうに話すことがあるという。

そして今、伝説の男「南南西の風」はいない。86年からツナギをロスマンズタイプ、ヘルメットをデイトナ平レプリカに換え、大垂水のヒーローであった彼は、5月1日の引退式をもって峠から姿を消した。免許取消になったのだ。名実ともに現在の大垂水最速となった「γ」は、6月にもらい事故で愛車「γ」を失い、雑誌の売買欄で安く手に入れたボロボロのカウルなしTZRで、8月の終わり、峠に復帰してきた。というわけで、「えんじょガンマ」は今、γには乗っていない。しかし常連はいまだに彼のことを「えんじょガンマ」と呼び続けている。 彼は身長170cmぐらいで小太り、黄色い穴開きトレーナーに、度重なる転倒で尻が裂けた先輩のお下がり革パンツ。尻のさけ目を腰に巻いたジャンパーで隠し、きわめつけは「文子ちゃん(恋人か?)」特製のリュックだ。これを背負っていると、峠の入口で通りすがりと思われ、警官に止められないのだという。

 

南々西の風

(最大、最速の伝説)

 

バリバリマシン創刊号での「南々西の風」の走り
(奥多摩・1986年4月刊行)

 

RTももじり

RTしゅわっち

 

 

 

RTやんちゃ

 

 

 

  

 

 

戻る

inserted by FC2 system